犬の白内障はこれを見て!【獣医師がわかりやすく7分で解説】

「目が白く濁ってきた」
「物にぶつかるようになった」
それは「白内障」のサインかもしれません。
早期発見・治療により、愛犬の目の健康を守っていきましょう!
目次
白内障とは?
白内障とは、目の水晶体(レンズ部分)が白く濁る病気です。本来透明で光を通す水晶体が濁ることで、視力が低下し、進行すると失明に至ることもあります。
白内障には段階がある?
犬の白内障は、進行段階に応じて見られる症状や視力への影響が異なります。
ステージ1:初発白内障
かなり初期の白内障です。
水晶体が少し混濁した状態で、見た目での判断は困難です。
病院での眼科検査で検出できるレベルで、まだ視力に影響はありません。
ステージ2:未熟白内障
見た目で水晶体の濁りが観察できる場合があります。
水晶体に透明な部分は残っているため、日常生活での視覚に問題はありません。
ステージ3:成熟白内障
水晶体の大部分が混濁している状態です。
飼い主様から見ても、水晶体が白く濁っていることが容易に観察できます。
この辺りから視覚も低下し、日常生活ではよく物にぶつかるようになります。
ステージ4:過熟白内障
水晶体たんぱく質が液化し、融解した状態です。液化した水晶体たんぱく質は眼内へ漏出し、ぶどう膜炎によって網膜隔離、緑内障を続発することがあります。
白内障の原因は?
犬の白内障の原因は多岐に渡ります。
1. 加齢性
人間と同じく、老化に伴って水晶体のタンパク質が劣化し、濁ってくることがあります。
比較的ゆっくり進行していきます。
2. 遺伝性(先天性、若年性)
特定の犬種では遺伝的に白内障が発症しやすいことが知られています。
急激に進行するため注意が必要です。
特に注意が必要な犬種例:
- トイプードル
- 柴犬
- ミニチュアシュナウザー
- アメリカン・コッカー・スパニエル
3. 代謝性(糖尿病)
犬が糖尿病を患うと、ほぼ100%の確率で白内障を併発するとされています。
高血糖状態では、水晶体内にソルビトールという糖質が蓄積され、急速に濁りを進行させます。
糖尿病性白内障の怖い点は、突然発症して急速に進行することです。
早期診断と血糖値の管理が非常に重要になります。
4. その他
目への外傷、紫外線、放射線治療、薬剤による白内障や栄養不良が原因として知られています。
白内障の検査方法は?
「もしかして白内障かも…」と気づいたら、まずは動物病院で正確な診断を受けましょう。
犬の白内障は見た目だけでは判断が難しく、専門的な機器と検査が必要です。
主な検査項目
1. スリットランプ検査
特殊なスリット状の光を目に当てて、水晶体の濁りや角膜の異常を観察する検査です。
肉眼では見えない微細な変化も確認できます。
2. 眼圧測定
白内障に伴って緑内障を併発していないか確認するために、眼内の圧力を測定します。
緑内障の場合は、眼圧が上昇します。
3. 超音波検査(エコー)
水晶体や網膜の状態、眼球内の出血や異常を調べるために行います。
網膜剥離や水晶体脱臼などの診断にも使われます。
4. 血液検査
糖尿病などの代謝性疾患が原因で白内障を引き起こしていないかを確認します。
特に急激に発症した場合は、全身疾患の有無をチェックする必要があります。

鑑別が必要な「核硬化症」とは?
高齢犬で水晶体が少し白く見えることがありますが、それが「核硬化症」と呼ばれる生理的な変化である場合もあります。
核硬化症は視力には影響を及ぼさないため、治療の必要はありません。
白内障と間違えやすいため、獣医師によるしっかりとした診断が必要です。
白内障の治療方法は?
白内障の治療方針は、大きく分けて内科的治療と外科的治療に分けられます。内科的治療では、進行を遅らせる予防の効果があっても、進行した白内障を完治させることはできません。あくまでも白内障の治療は外科的治療(手術)が主となります。
内科的治療:進行を予防する
初期段階であれば、進行を遅らせる目的での内科的な治療が有効な可能性があります。
主な内科的治療法:
- ピレノキシン点眼薬
→ タンパク質の変性を抑える働きがあり、白内障の進行を遅くする可能性があります。
外科的治療:手術による視力の回復
白内障が進行し、日常生活に支障をきたす段階に入ると、手術による対応が唯一の根本的な治療方法になります。
主な手術方法:
- 超音波水晶体乳化吸引術
→ 濁った水晶体を超音波の振動で細かく砕いて吸引し、水晶体の代わりに犬用人工レンズ(眼内レンズ)を挿入します。

手術までの流れ:
- 術前検査(血液検査、画像検査に加え、専門医での網膜電位図検査など)
- 全身麻酔の実施
- 白内障手術(両目または片目)
- 術後の入院
- 数週間にわたる点眼薬と定期検診
※手術自体の難易度により、手術後に緑内障や網膜剥離等の合併症も起こることがありますので、その手術を行う際には手術を行う獣医師の熟練が必要となります。当院では実施できないため、二次診療施設をご案内しています。
術後の注意点と合併症リスク
犬の白内障手術は人間に比べて合併症のリスクが高いとされています。
一般的に、手術後10%程度の症例で何らかの合併症が報告されています。
主な合併症:
- ぶどう膜炎(炎症による痛み)
- 緑内障(眼圧上昇による視覚の喪失)
- 網膜剥離(水晶体の変性に伴う剥離)
これらは早期発見と適切な管理により抑えられることが多いため、術後の通院と点眼管理は非常に重要です。
白内障を放置するとどうなる?
白内障は自然に治ることはなく、進行すればするほど合併症の発生リスクが高くなります。
合併症
水晶体起因性ぶどう膜炎
水晶体から漏れ出たたんぱく質によって炎症が起こる状態です。
症状としては、結膜の充血、痛み、目をしょぼしょぼする(羞明)、涙が多いなどがあります。
緑内障
眼内の圧力(眼圧)が上昇し、網膜や視神経にダメージを与える病気です。
失明リスクが非常に高く、緊急手術が必要になることもあります。
網膜剥離
網膜が本来の位置からはがれてしまう状態です。
視力の回復はほぼ望めず、進行すれば失明へ直結します。
水晶体脱臼
水晶体が本来の位置から外れてしまい、視力を失うだけでなく、緑内障や網膜剥離の引き金にもなります。
最終的には失明、眼球摘出も…
過熟期まで放置すると、白内障による水晶体の融解や萎縮が進み、目の内部に炎症が広がってしまいます。
このような状態になると、手術による視力回復はほぼ不可能となり、最悪の場合は眼球摘出手術を行うケースもあります。
症例紹介
1歳 去勢雄 パピヨン
術前

術後

Q&A
手術の費用はどれくらい?
手術を実施する施設によっても異なりますが、約30~50万ほど掛かります。
白内障は再発する?
基本的に再発はありません。
術後に水晶体後嚢の混濁(後発白内障)が起こりますが、視覚に影響が出ないものです。
猫でも発症する?
今回の記事では犬について詳しく解説していますが、確率は犬ほど高くはないですが発症します。
まとめ
犬の白内障は、進行が早く、放置すれば失明や深刻な合併症につながる可能性のある病気です。しかし、早期発見・早期治療によって、愛犬の視力や生活の質を守ることができます。
特に目が白く濁ってきた、物にぶつかるようになったなどの兆候に気づいたら、すぐにご来院ください。
また、白内障の手術は高度な医療が求められますが、右京動物病院では二次診療施設と連携しておりますので、ご安心ください。
愛犬の目の健康を守ることは、飼い主様の大切な役割です。
この記事が、白内障に悩む飼い主様とその大切な家族であるワンちゃんの助けとなれば幸いです。