犬の僧帽弁閉鎖不全症って?【獣医師がわかりやすく7分で解説】
僧帽弁閉鎖不全症とは?
僧帽弁閉鎖不全は犬で最も多い心臓病のうちのひとつです。健康な心臓での血液の流れは、全身→右心房→右心室→肺→左心房→左心室→全身と一方通行に流れ、逆流することはありません。その左心房と左心室の間にあるのが僧帽弁であり、僧帽弁閉鎖不全症では加齢などにより弁が変性してうまく閉じなくなり、血液の逆流が生じる病気です。
僧帽弁閉鎖不全の原因は?
僧帽弁が腫れて厚くなったり、便を引っ張る腱索が変性して切れたりすることで、弁が正常に機能しなくなります。加齢性の変化で起こることが多いですが、その詳しい原因ははっきりとはわかっていません。
ただ、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルは遺伝的に好発犬種と言われています。日本では、チワワ、マルチーズ、トイプードル、ポメラニアンなどの小型犬で多くみられます。
どんな症状がでる?
初期の段階では、疲れやすくなった、寝てる時間が長くなるなどの症状でご家族も気付けない事が多いです。進行していくと、咳、呼吸が荒い、舌の色が紫になる(チアノーゼ)、などの症状が出ます。重篤化すると、ピンク色の泡状の痰を吐くなどの症状を呈し、呼吸困難から死に至る場合もあります。
どうやって診断するの?


- 聴診
心臓の音の異常(心雑音)がないかを調べます。 - レントゲン検査
心拡大や肺の白っぽさがないかを確認します。 - 超音波検査
弁の形や動き、心拡大の程度、血液の逆流の速さなどを測定し、重症度を判定するとともに、心不全リスクを予測することが可能です。
治療法は?
内科治療
内科治療は根本的な治療ではなく、進行を遅らせたり、症状を抑えることが目的となります。心臓の状態に合わせていくつかの内服薬を使用しますが、心臓の収縮力を上げる薬や血管拡張薬や利尿剤がよく用いられます。
基本的に生涯にわたる治療が必要となり、病気の進行具合に合わせて薬の内容を見直していくので定期的な検査が必要となります。
外科治療

内科治療とは異なり、根治を目指した治療となります。犬の僧帽弁閉鎖不全症に対する外科治療としては、僧帽弁形成術と呼ばれる手術が実施されることがおおいです。肺水腫になった事がある子や、肺水腫の危険性の高い子、進行の程度が早い子が適応となります。僧帽弁形成術は、人工心肺装置を用いて心臓の動きを止めた状態で実施し、左心房を切り開き、そこから直接僧帽弁を修復していきます。もちろん大きな手術になるので、数多くの合併症が報告されています。ただ無事に手術を乗り越え、その後大きな合併症にかかることがなく過ごすことができれば、肺水腫を心配することなく寿命を全うすることができます。手術後数ヶ月間は内服薬の投与が必要となりますが、最終的には心臓病に対する内服薬を終了することができる子がほとんどです。
予防することはできるの?
残念ながら、僧帽弁閉鎖不全症は予防することは難しい病気です。ただ、日常生活で肥満にさせないことや、塩分濃度の高い食事を与えすぎないことで心臓への負担は軽減できます。
また、定期的に聴診などの健康診断を行うことで、病気の早期発見につながり、進行を極力遅らせることができます。心臓病が進行してからの治療開始だと、内服薬でのコントロールが難しくなっていくので、日頃からよくわんちゃんを観察し、様子が変だと感じた場合は早めに病院を受診するようにしましょう。
まとめ
僧帽弁閉鎖不全症は、早期発見が難しく進行性の心臓病です。症状がない段階でも、少しずつ病気は進んでいることが多く、放置してしまうと命を落としかねない病気です。ご家族のケア、定期的な健康診断の実施によって早期発見・早期治療を心がけ、楽しい時間を少しでも長く一緒に過ごせるようにしてあげてください。
また、僧帽弁閉鎖不全症は犬でも手術によって完治を目指せる時代になっています。当院では、根治治療である僧帽弁形成術を実施しておりますので、気になる症状がある場合や、治療について不安がある場合は、お気軽にご相談ください。
